2006年08月01日

複雑≠高度

自動車のエンジン

GMの技術力はトヨタよりも上という記事を見かけました。 なんでも、トヨタの現役エンジニアがそう語ったのだとか。

トヨタには色々といいたいことがあるのですが、今回は別のお話でも。そのうち、ハイブリッドの実燃費のお話でもしましょう。

前ふりが長くなってしまいましたが、

「技術屋の目から見ると、特に車の心臓部にあたるエンジンについては、せいぜいハイブリッドがまあ、目新しいね、という程度で基本設計段階でGMやフォードに匹敵するエンジンが作れているかという必ずしもそうとも言えないんだよ。 その証拠にトヨタはいまだにあれこれエンジンの基本設計を試行錯誤していじっていて、それはそれでいいのかもしれないけれど、GM、フォードあたりになると40年以上前のとんでもなく古い基本設計のエンジンを積んで、それでトヨタ車と遜色ない性能をたたき出している訳で、技術的にははるかに上を行っているとも言えるんだよ・・・・ 」

四十年前!! 冗談だろう、と思って調べてみたら、たまたま今日の文春にも同じような話を発見! コルベットのエンジンが50年前のOHVのV8エンジンを搭載していると・・・・

DOHC(最近のエンジンで主流な方式)はOHVと比べて複雑な機構でありますが、あらゆる面においてDOHCはOHVよりも優れているのでしょうか。 それでは、OHVとDOHCについて簡単な説明でもしましょう。小学校の頃に読んだ本の記憶を頼りに…。

OHV、DOHC両エンジンの共通部分

この図は、OHV・DOHC両エンジンの共通部分です。一般的なエンジンは、燃焼室で燃料を燃焼させることによってエネルギーが発生します。 そのエネルギーによって、ピストンを移動(この図では下へ移動)させます。 ピストンが移動すると、それに付随しているコンロッドが動き、それがクランクアームを介してクランクを回転させます。 クランクアームは、クランクピンによってコンロッドに接続されています。 クランクアームとクランクは、図には描かれていませんが、ある部品によって接続されています。

要するに、燃焼エネルギーによってクランクをまわしているのです。

クランクアームは、図では簡単なものとなっていますが、実際には振動を打ち消すために遥かに複雑な形状となっています。

DOHCエンジン

最近は主流であるDOHCエンジンは、クランクとカムがベルトでつながっています。カムは卵型をしているので、回転すると半径が変化します。 それによって、特定の角度に達するとバルブを押し出します。バルブ(空気を吸い込んだり吐き出したりするためのベン)には、ばね(図では省略)がついているためにカムに密着します。 カムはチェーンによってつながれているので、バルブの配置の自由度は高いです。バルブの配置は、エンジンの性能を決定する要素です。

要するに、クランクの回転エネルギーをカムの回転にそのまま用いて、最後にバルブを往復させるのです。

正確には、クランクプーリーを介したクランクとカムシャフト(カムの軸)・カムプーリーを介したカムがつながっているのですが、便宜上省略しました。

OHVエンジン

OHVは、カムが燃焼室の上部にマウントされていません。そこで、カムによってプッシュロッドを上下に動かします。プッシュロッドの先には、ロッカーアームと呼ばれるテコの様なものがあります。 これを介して、バルブを動かします。

プッシュロッドの質量は大きいうえに、往復運動をしているので、エンジンの回転数が上がる(即ちカムの回転数が上がる)とプッシュロッドが大きく振動します。 また、カムの運動をプッシュロッドを介して伝えねばならないので、バルブの配置の自由度は小さくなる傾向があります。

要するに、クランクの回転エネルギーをプッシュロッドの往復エネルギーに置き換え、それをバルブの往復エネルギーとして用いるのです。

OHVは回転数があげにくく、振動も大きいためにDOHCが現在の主流となっています。OHVが搭載されている自動車といえば、ディーゼルエンジンのトラックぐらいでしょうか。

ところが、DOHCという構造はエンジンの上部に複雑な機構が搭載されることとなります。つまり、重心が高くなります。自動車では、重心が高くなることに比例してロール(横方向の傾き)が大きくなります。 つまり、運動性能(自動車の速さ)も乗り心地も悪くなってしまい、いいことは何もありません。また、複雑な機構になれば、部品点数が増えてコストが増えたり摩擦が増えたりします。

要するに、OHVの様な古典的なエンジンはDOHCよりも劣るとは限らないのです。

図では、複雑ではありません。しかし、実際にはカムの周辺は複雑です。現在では、カムの位相やバルブのリフト量(移動量)を調整できるシステムが主流であるため、複雑さは増す一方です。

それでは、DOHCのスポーツカーとOHVのスポーツカーの燃費を比較してみましょう。

OHVエンジンとDOHCエンジンを搭載した自動車の性能比較
二玄社刊 CAR GRAPHIC 535 2005年10月号のP.118〜P.122より
比較内容 シボレー コルベット ポルシェ ボクスターS
エンジンの方式 V型8気筒 OHV 水平対向6気筒 DOHC
排気量(cc) 5967 3179
馬力(ps) 404 280
トルク(mkg) 55.6 32.6
車両重量(kg) 1500 1380
全長(mm) 4455 4330
全幅(mm) 1860 1800
全高(mm) 1250 1295
100km/h巡航燃費(km/l) 13.2 12.7
追い越し車線
走行燃費(km/l)
10.1 9.6
ワインディングロード
走行燃費(km/l)
4.3 4.8

このテストによれば、大排気量のOHVエンジンを搭載していて、なおかつ車重的にも不利なコルベットは、それの半分の排気量のDOHCエンジンより燃費において不利ということはなさそうです。 それだけでなく、排気量のおかげでコルベットの方がパワーも遥かに大きいのですから、コルベットに有利な条件ではないと判断して差し支えないのではないでしょうか。

これらは、CPUにもいえるのではないでしょうか。 最近、パソコンの処理速度は頭打ちとなっています。かつては、半導体の集積密度は18ヶ月で2倍になるので、ネズミ損式に処理能力が増えていったものですが、最近は様々な要因により伸び悩んでいます。

そのためか、複雑な汎用性の大きいプロセッサではなく、特定の用途に特化したシンプルなプロセッサを用いる方向に切り替わろうとしているようです。 PS3のCPUであるcellはその代表格でしょう。AMDはコプロセッサ、Intelはメニーコアと似たような方向に焦点を定めているようです。

複雑であることは高度であることではないのです。忌まわしき贅肉は捨ててしまいましょう。

P.S.リンク先の記事のコメント欄には、(スズキ自動車の)鈴木会長がGMに見習うことがあると発言したとありますが、いつの間に心変わりしたのでしょう。 鈴木会長は、以前に、 (GMの)ワゴナー会長は、ちょっとボケているんじゃないか GMの販売が落ちてるのはGMのクルマに問題があるからだ と、親元の総大将であるワゴナー会長を痛烈に批判していたのですがね。1年半前のことです。

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